漫画の地球儀

キリンヤガ 感想・レビュー・評価・あらすじ・微ネタバレあり【小説】【ヒューゴー賞、星雲賞を受賞】

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キリンヤガ (ハヤカワ文庫SF)
www.rick1208.com

どういう話なのか

「キリンヤガ」という、ケニア少数民族キクユ族の、
ユートピアとして作られた惑星を舞台にしたSF連作短編です。

文明社会によりケニアとして一つにくくられ、
アイデンティティを失いつつあるキクユ族は、
文明以前の社会に回帰し民族性を取り戻そうと「キリンヤガ」という惑星に入植します。

そして主人公のキクユ族の祈祷師コリバは、
キリンヤガをキクユ族のユートピアとして維持するために奮闘するのですが……というような話です。


ヒューゴー賞星雲賞など、様々なSFの賞を受賞している小説ですが、
科学考証とかが分からなくても理解出来る、取っつきやすい小説です。

私もSFはちょっと……という人間なのですが、
面白さの肝がSF部分ではないので、すいすいと読み進めることが出来ました。

ユートピアはある瞬間のみその人にとってのユートピアである

さて、この本の面白いところはどこかというと、
民族的ユートピアの創世とその顛末を丁寧に書いていくところです。

主人公のコリバはキクユ族の祈祷師で、
祈祷で奇跡を起こしつつ(といっても、やっていることはコンピューターを操作して気候など操っているだけのことだ)、
キクユ族の昔ながらの文明が息づくユートピアを守ろうと奔走します。

けれど何事をおいてもキクユ族の伝統を守り続けるのは是なのか非なのか、
という問題を突きつけられたり、
世代の移り変わりにより綻びが生まれてきたりと維持が難しくなり、
そして……という展開が、ユートピアという存在のはかなさを感じさせられます。

社会は変わりゆくものなので、
ユートピアはいつまでもユートピアであることは出来ない。

ユートピアを夢みる一人としては身に積まされる思いでした。

好きなエピソードなど

連作短編なので複数の短編で構成されているのですが、
どれももの悲しさやはかなさにあふれ、かつしみじみと考えさせられる内容です。

一番評価が高いのは、知識欲にあふれた少女が、
キクユの掟によって悲劇的な結末に終わる「空にふれた少女」のようなので、
これだけまず最初に読んでみるというのもありかもしれません。

個人的には本も後半にさしかかり、
ユートピアの維持に暗雲が立ちこめてきたな……というところで、
「古き神々の死すとき」というタイトルがあらわれるのが大好きです。

この先の展開を強く暗示しているタイトルで
「ああ、ついにその時が来てしまうのか」と鳥肌が立ちました。

若い世代の人にはあまり知られていない小説なので、
これを機に知ってもらえたら嬉しいです。